野口雨情作詞の童謡「赤い靴」。幼いころ、何となく歌詞を耳にして「この曲、何か怖い」と思った方もいるのではないだろうか。曲調も寂し気で、女の子がなぜ「異人さん」に連れていかれたのかもまったく語られていないところが不気味である。今回は赤い靴の歌詞の意味にまつわる話と、同じ野口雨情による「しゃぼん玉」「七つの子」を紹介する。
赤い靴の歌詞の意味は?実話ってほんと?
雨情忌
詩人・野口雨情の1945年1月27日の忌日。
赤い靴はいてた 女の子
異人さんに つれられて 行っちゃった横浜の 埠頭から 汽船に乗って
異人さんに つれられて 行っちゃった生まれた 日本が 恋しくば
青い海 眺めて いるんだろう
異人さんに たのんで 帰って来 pic.twitter.com/6JT068e7Mc— 久延毘古⛩陶 皇紀2679年令和元年葉月 (@amtr1117) January 26, 2018
「赤い靴」に出てくる女の子だが、実際に存在した少女がモデルとなっており、実話である。少女の名は「きみ」。岩崎かよという女性の娘であった。横浜の山下公園に、この少女をイメージした像が作られている。
少女の悲しい結末を元にしている?
赤い靴の歌詞の意味の考えるにあたり、きみちゃんの境遇を知る必要がある。きみちゃんは、お母さんと一緒に北海道開拓のために、本州から函館へ移住したものの、きみちゃんが病弱だったために、宣教師のヒュエット牧師にあずけられることとなった。その後ヒュエット夫妻が本国へ戻ることとなり、きみちゃんも一緒に渡米することとなった。まさしく歌詞の通り異人さんに連れていかれる状況であった。しかし、きみちゃんは運悪く結核にかかってしまい、渡米はできず、そのまま横浜で亡くなってしまったのだという。まだたったの9歳であった。
しかし、母のかよは娘の死を知らないまま過ごし(札幌に移住)、以降もずっときみちゃんがアメリカで幸せに暮らしているのだろうと信じていたというのである。
野口雨情自身も娘を幼くして無くしていたこともあり、この話を聞いてきみちゃんと母のかよの状況に同情し、赤い靴を作曲したといわれている。赤い靴の歌詞の意味には、このような思いが込められているようだ。
ただ、後年判明したことではあるが、きみちゃんが預けられたとされる異人さん「ヒュエット牧師」は、預けたとされる年(1905年)に日本にはいなかったという噂もある。真実はどうであったのか、現在も詳細は分からないままだが、少女が母と離れ離れのまま幼くして亡くなったことは事実のようである。
この悲しい話をもとに、東京の麻布十番にもきみちゃんの像があり、募金ができるようになっている。寄付金は子どもたちの未来に役立てられるそうだ。
静岡県にある像は母娘像となっており、二人を巡り合わせたいという人々の願いによって作られたものである。
赤い靴の少女にまつわる話は多くの人の心を動かし、世界で9つの像が存在するそうだ。
また、この赤い靴の歌詞の意味には、人さらいに注意せよというメッセージもこめられている。今も昔も子どもを狙った犯罪は多く、中でも誘拐により行方不明となった子どもたちは数知れない。一度聞いたら忘れられないような恐ろしく寂しい雰囲気の曲には、注意喚起の意味もこめられているのである。メロディーがモーツァルト作曲の『きらきら星変奏曲』の中の曲にも似ているといわれ、歌詞とともに耳に残る曲だ。ちなみに「赤い靴」の作曲者は本居長世で、「十五夜お月さん」でも作曲を担当している。
詩人・野口雨情
烏 なぜ啼くの 烏は山に
可愛七つの 子があるからよ
可愛 可愛と 烏は啼くの
可愛可愛と 啼くんだよ
山の古巣に いって見て御覧
丸い眼をした いい子だよ野口雨情 pic.twitter.com/1yWbJly9Dm
— 久延毘古⛩陶 皇紀2679年令和元年葉月 (@amtr1117) May 29, 2014
波乱万丈の人生を送りながらも、生き物や子どもに対する愛情あふれるまなざしを余すことなく歌にした詩人・野口雨情。彼自身も楠木正孝の子孫という説があったり、謎の多い人物である。
「シャボン玉」の歌詞の意味は?早くに亡くなった子どもへの歌?
野口雨情によるもう一つの有名な童謡「シャボン玉」。明るい曲調ながら、「壊れ」て「消え」たと儚い姿が描かれており、記憶に残りやすい歌詞となっている。
シャボン玉の歌詞の意味や背景には、野口雨情自身の子どもたちの死があった。彼の最初の子は8日ほどで、次の子も二年ほどで亡くなってしまったのである。昔は、「七つまでは神の子」という言葉もあるほど、子どもが成長前に亡くなることが多かったのだ。
近所の子どもたちがシャボン玉で遊ぶ姿を見て、亡くなった我が子のことを想う日があったのかもしれない。書かれた時期的に、親戚の子の死をもとにした歌であるとも推測されているが、真相は分からないままである。シャボン玉が子の死を意味した歌であると生前に語られることはなかったそうだが、歌詞には、野口雨情の子を悼む気持ちがこめられていると思われ、今もたくさんの親と子に歌い継がれている。「怖い」というよりは悲しい伝説かもしれない。
「七つの子」の七つの意味は?今も謎のまま?
子守唄として口ずさまれることもある「七つの子」。「かわいい、かわいい」と歌う母にくすぐったい気持ちになった子どもたちもいるだろう。この歌詞も野口雨情によって書かれたものである。「七つの子」と歌われているが、カラスは七羽も子を産むことはないそうだ。また、カラスは約十年から三十年ほど生きるそうで、七歳だともう大人である。「七つ」とは何なのか、歌詞の意味は未だに解明されていないらしい。
ただ、生物学的に正しくはなくとも、子を可愛いと思う気持ちはカラスも人間も同じであることから、七つという数字に意味はなくとも、口ずさむと温かい気持ちになる歌である。
この歌は長く愛され、人気番組『8時だョ!全員集合』で替え歌を作られたりしたこともある。いずれにせよ、野口雨情の詩が日本人の心を打つものであることに間違いはないと思われる。
まとめ
最後に、「赤い靴」と並んで異国で歌われている「青い眼の人形」についても紹介しよう。「青い眼の人形」の歌詞は、人形の目線で日本の少女たちに向けたメッセージとなっている。キューピー人形がモチーフといわれている。日本とアメリカの友情の印として贈られた青い眼の人形たちは、第二次世界大戦で敵国の象徴とされ、迫害される憂き目にもあった。「赤い靴」も「青い眼の人形」も歌うのを禁じられる時代があったのである。
そういった悲しい歴史を乗り越えて伝えられている名曲にまつわる話は、謎めいた部分も含めて語り継がれている。